- 2009年10月19日 08:00
- 萌え4コマ
先日受けた健康診断でのこと。
僕が血圧を測っているとき、上司のひとりが視力検査を受けていたんですね。まあ1部屋で済む程度のかんたんな検診です。その上司は、初老の入り口にいる強面ながら妙に腰が低くて愛嬌のある愉快な男性。双眼鏡のような視力検査機を覗き込んでいるそんな彼に、看護師さんは規定どおり尋ねます、「(丸印が欠けているのは)どっちですか?」と。
すると彼は、何を考えているのか、いやたぶん何にも考えてないんでしょう、ドスの利いた声でこう答えました。
「おおむね下」だと――。
即席の健康診断会場は一瞬にして爆笑の渦に。「おおむね」ってなんだよ!! 大きな胸の略かよ!!!
僕も腹を抱えて笑ってしまいましてね、そのせいか血圧が上がって3回も測定し直すハメに・・・。笑いは血圧を下げるといわれてるけれど、あれって嘘だね。笑った直後はむしろ上がるよ、だって横隔膜運動してんだから。あーおかしかったー。
血圧が下がるにしろ、ちょっとした運動になるにしろ、笑いによって体調が変化するということを苦笑とともに実感したひとときでした。笑いが高血圧や血糖値を改善したり、ガンの予防までしちゃうなんて話がまことしやかに語られていますが、その信憑性はともかく、笑うことでストレスがやわらぐのは経験的に間違いないし、それが健康に良くないはずはありません。
老人福祉施設にお笑い芸人や落語家が慰問するのは、笑いが(広義の)健康にとって良い効果を実際に期待できるからであり、健康のために笑いたい(笑わせたい)から呼ばれている慰問者は、よっぽど――でもない限りウケるためのハードルが低い=仕事がしやすいといえます。入所者に笑って欲しいスタッフはまず率先して笑ってくれるだろうし、慰問者もまた(広義の)健康という意味で良い影響があることでしょう。芸の肥やしになるかどうかは、わからないけどね。
笑うということが、少なくとも本人の精神衛生を健康にするといえるのなら、僕はといえば、萌え4コマ漫画における笑いとは"ワクチン"に当たるんじゃないかと考えていました。いわゆる萌えとは、性的な記号。性的なことがすべて不健康だとはいわないけれど、不健康であることが萌えのグリップを高める。不健康を貫いて、いかに病的であるかが萌えの品質バロメーターです。
しかし萌え4コマ漫画とは、4コマ漫画である以上オチが求められ、笑いがなくてはなりません、基本的にあるいは存在定義として。1コマ目から3コマ目までが萌えであっても、4コマ目は笑いが来なくてはいけない、最低限あるいは申し訳程度は。まあそれほど神経質に区別する必要はないと思うけど、あえて言うなら、笑いが主であり、萌えは従。萌えしかなければオチないけれど、萌えがなくとも笑えるなら一応は成立するジャンルだから。
キャラクターがそれなりに可愛ければ、キャラクターの言動ややり取りでことさら萌えさせなくとも割と良いし(「キルミーベイベー」など)、キャラクターが可愛さとは無縁で内容も萌えとは程遠いものであったとしても、女の子がメインで、萌え4コマ誌に掲載されているから萌え4コマとして扱われているといえるような作品も現にあります(「はるみねーしょん」「ちろちゃん」など)。ぶっちゃけ空気でしかないんですよ、萌え4コマ漫画でいうところの「萌え」とは。
掲載誌、内容、登場人物とコマ各次元における間口の広さあるいは"ゆるさ"ゆえに、萌えは呼吸する読者にたやすく伝染します。それは物語性もメッセージ性も帯びていない原初だから解釈という不織布マスクによって防ぐこともできない。にもかかわらず萌え4コマ漫画がおおよそ萌えに耽溺し切ってるという風でないのは、そこに笑いがあるからなんですよね。
萌えはたいてい救われない、しかし笑いは救ってくれる。そして笑いが主である萌え4コマ漫画は、萌え(の悪質さ)を救ってくれるんだ。


その点「まんがタイムきらら」2009年10月号(芳文社刊)掲載の「かたつむりちゃん」が実にわかりやすい。萌えそのものをネタにして笑いにくべて"あっけらかん"とした態度は、いうなれば毒性の弱められた病原体を体内に注入して抗体を生成するワクチンのしくみ。
そこで求められるのは、弱毒化された萌えを匂いとして愉しむ読者の品性ある嗜好であり、「それ品性ちゃうやろ!」という自己言及性いわゆるセルフツッコミの振り幅こそが、萌え4コマ漫画をそれとして受け付ける一般概括主義(「なんでもアリ」の大まかなルール)。
萌え4コマ漫画を愛読するような読者はおそらく萌え文化に日頃より親しんでいるだろうから、すでに1回目のワクチンは接種済と見なす。そこをさらに2回目のワクチンとして笑いを注射される、ゆえに萌えというにはあまりにねばりけのない情緒を感じ取れるのかもしれないなあ。感じ取る、そう、笑うのは何しろ自分の体調ですからね。
そんなさらりとした萌えの先で、何を描くかというステージを僕はまちぶせてる夕暮れの街角――。
まあ、いくら笑いが健康的だといっても大笑いしてもマイナス10プラス6イコールマイナス4、「萌え4コマ漫画は健康的だ」なんて言うことはできないけれど。あ、あと「かたつむりちゃん」はぜんぜん好きじゃありません、とっとと終わらせちゃって「日本ちゃん」の新連載に専念してくださいよ、正味な話。
- Newer: 「まんがタイムきららMAX」2009年12月号
- Older: 「ねこにゆーり」(1) kodomo兎